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パワーエレクトロニクス


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MCP16301、MCP19035、MCP19111などのスイッチングレギュレータ製品には外付けのRC部品の定数を決めるためのシミュレーション ツールがあります。これらのシミュレーション ツールを使えば、どんな負荷を接続しても安定動作できる事を事前に確認できるのですか?
これらのツールは負荷が純抵抗だと仮定して負帰還回路の安定性を調査しています。そのため、負荷が純抵抗ではない場合には必ず実験が必要です。
従来はシミュレーション ツールがなかったため、最初の試作段階での負荷が純抵抗でも安定性の調査に時間を要していました。このシミュレーション ツールによって、初期の検証が大幅に短縮できます。
MCP14700 MOSFETドライバにはローサイドのみならずハイサイドのドライバも入っているので大変便利です。ハイサイドの電源供給用のCbootについては、必要な容量をどのように求めるかについても、容量値制約についてもデーターシートに記載されています。しかし、ローサイドの電源バイパス容量については記載がないため、どんな注意が必要なのかを教えてください。
MCP14700は高い周波数で電力スイッチを行うため、この高い周波数で十分な電力を供給しなければなりません。さらに忘れてはならないのは、ハイサイドの電源供給用のCbootに電力が供給される期間は、ハイサイドがOffでローサイドがOnの時だけである事です。この期間には前述のようにローサイドもOnとなっているため、ローサイドの電源バイパス容量はハイサイドの電源バイパス容量も保持する必要があります。このため、ローサイドの電源バイパス容量はCbootよりも大きい事が必要です。
MCP16251/252は従来製品であるMCP1623/24やMCP1640xと何が違うのでしょうか? 出力電流の観点からは、単に両者の中間的な製品のように見受けられますが。
MCP16251/252は、既存のMCP162x/164xに比べ、出力電流の観点では確かに中間に位置しています。しかしこのMCP16251/252は、動作電流を大幅に下げた製品です。
表
MCP1623/24、MCP16251/252、MCP1640xでは、入力電圧が出力に設定された電圧よりも高い場合には昇圧動作を行わず、入力電力源を出力にバイパスします。これは、デバイスの機能の1つであるバイパスモードとは異なりますよね? このように、バイパスモードではない状態で入力源を出力に出す状態での最大出力電流はどれくらいですか?
バイパスモードは、デバイス自体がディセーブルの時の動作モードです(上表参照)。従って、ご質問の状況とは異なります。その場合、上表の全デバイスが対象となり、出力電流は約100 mA (typ.)に制限されています。従って、より大きな電流を出力させようとするとデバイスの出力電圧が落ち、その制限された出力電流で平衡するように動作します。入力電圧が、設定された出力電圧より下がると昇圧動作が開始します。
リチウムイオン バッテリチャージャで、できるだけ小さい電流で充電が可能なデバイスはどれですか?
MCP73831/832です。充電電流最小設定は12.5 mAです。
TC7660チャージポンプを使っています。PCB上で高周波の可聴音が発生しています。この音を消したいのですが、どうすれば良いですか。
発振周波数が可聴周波数帯域にあるスイッチング回路にセラミック コンデンサを使うと遭遇する問題です。セラミック コンデンサの誘電体は顕著な電歪効果を持っています。このため、電歪振動子となってしまうのです。この現象を回避するには、下記の3つの対策の内どれかを使います。
(1)電歪による振動を抑えるように工夫してあるセラミック コンデンサを使う
(2)電歪効果のない誘電体を使ったコンデンサに交換する
(3)発振周波数を可聴帯域の外に追いやる
正電圧用のLDOはなぜ負電圧用に転用できないのですか?
LDOを3端子の半導体とみなし、各々のピンで電圧の高い順にH、M、Lと名前を付けます。入力電圧はH-L間に与えられ出力はM-L間に表れます。平滑はM-L間で行われます。Lはグランドとなっています。入力電圧の変動=H-L間の変動は、H-M間に表れます。
ところでこのLDOを負電圧側に転用すると、入力電圧をH-L間に与え、出力をM-L間ではなくH-M間から得る事となります。負電源はLに接続されます。平滑はM-L間で行われるのは当然です。そのようなデバイスだからです。すなわち、入力電圧の変動(H-L間の変動)は、H-M間に表れてしまうので、出力には入力変動が表れる事となるわけです。
図
MCP1754とMCP1755とは出力電流仕様が異なるだけの製品で、パッケージも同じタイプに封入されています。しかし、8ピンのDFN(パッケージコード=MC)製品だけ熱抵抗が大きいです。どうしてでしょうか?
MCP1754を発表した時点(2011年8月)にパッケージメーカーから提出されていた熱抵抗データとMCP1755を発表した時点(2012年12月)にパッケージメーカーから提出されていた熱抵抗データが異なるためです。後者での熱抵抗データは更新されていました。熱抵抗データは、実験素材/実験環境に大きく影響を受けますので、上記のような事が起き得るのです。MCP1754のデータシートが更新された時(2013年4月)、パッケージの熱抵抗データも更新するべきでした。次回の更新時にはパッケージ熱抵抗データも更新します。
LDOのデーターシートで、よく「出力容量として小さな容量のセラミックコンデンサしか接続してなくても大丈夫」という表現がありますが、これはどういう意味ですか?出力側のセラミックコンデンサの容量が小さいと何か問題があるのですか?
一般的に、LDOの負荷に小さな容量のセラミックコンデンサを接続すると、LDOは発振しやすくなるのです。その理由は「LDOはオペアンプの応用」だと考えると分かりやすいです。弊社のオペアンプのデータシートを読むと 「負荷が容量性の場合には直列に抵抗を入れてください。もしそうしない場合には発振する事があるかもしれません」と記載があります。そして当該オペアンプの負荷容量に応じた直列抵抗値を推奨しています。一般的には小容量のコンデンサには大きな直列抵抗を、大容量のコンデンサには小さな直列抵抗を挿入します。
ところでセラミックコンデンサは一般的には等価直列抵抗が非常に低いのが特徴です。
代表的な発振防止対策としては以下の4通りが挙げられます。
(1) 容量値を大きくする
(2) 直列抵抗値を大きくする
(3) 等価直列抵抗値の大きなコンデンサに交換する
(4) 小さな容量のコンデンサを接続しても発振しないLDOを使う
また、下記のアプリケーション ノート(和文)もご参照ください。
AN884 - オペアンプによる容量性負荷の駆動』(DS00884B_JP、2012)
PSRR(電源電圧変動除去比)が優れたLDO (MCP1754、MCP1755)が適した応用について教えてください。
高PSRRの製品はブリッジ回路や精密センサ回路等、高い正確度が要求され、少しでも電源電圧変動に起因する誤差を低減する必要がある応用向けです。PSRRが低いために測定値に誤差があると、ADCのビット数がいくら多くてもせっかくの高分解能も活かせないか、あるいは補正にかなりの労力を要するからです。
70 dB程度のPSRR値であれば、ブリッジ用アナログ信号回路の電源のみならず、参照用電圧源としても使用できます。また、音響機器などの応用でも高品質な再生を行えます。
さらに、車載にも対応しているMCP179xファミリでは入力電圧範囲をかなり広くとる事が可能なため、結果としてPSRRもより高くなっています(90 dB以上)。
LDOを使う時、通常動作時は入力電圧が出力電圧よりも必ず高くなっています。 しかし、一時的にでも出力電圧が入力電圧よりも高くなる場合、LDOはどのようにふるまうのでしよう。
バッテリチャージャの場合、上記のような条件が必ず発生します。そのため、バッテリチャージャ専用の半導体は、そのような条件が発生しても問題が生じないような対策が講じられています。しかし、汎用LDOはバッテリチャージャ専用ではないので そのような対策は講じられていません。そのため、電流パストランジスタに寄生しているボデイダイオードを通じて、出力側から入力側に電流が流れます。
これは瞬間的な事なので問題ないとお思いかもしれません。しかし、一般的にはボディダイオードが通電してしまうと、チップ内のバイアス状態が崩れ、複数のボデイダィオードが通電したり、バイポーラトランジスタが形成されたりして通電状態になり、発熱してLDOの寿命を縮めます。
従って、このような事が想定される場合、LDOの入出力間に保護ダイオードを挿入しておく事を推奨します。例えば、複数電圧を使用するシステムで電源ON/OFFのシーケンスが複雑で動作がいつも同じとは限らない場合、最初から保護の目的でダイオードを挿入する事を推奨します。
MCP1623/MCP1624/MCP16251/MCP1640x等の昇圧用スイッチング レギュレータで、入力電圧が設定出力電圧より高い場合でも正常動作しますか?
正常動作しません。データーシートにはVin > Voutの場合にレギュレートしないと記載されています。これはスイッチング レギュレータとしてだけでなくLDOとしても動作しないという意味です。この場合、入力電圧がバイパス出力されますが電流制限されており大電流を流す事はできません。
ところで、応用検討実験において定電圧電源を使う場合にこのような状況に遭遇する事があります。その場合、定電圧電源ではなく、想定している応用上の電源(例: 乾電池)を接続して実験してください。すなわち、供給可能な電源電圧が電源の内部出力抵抗によって低下する事も考慮して実験してください。
MCP1640昇圧用スイッチング レギュレータを使っています。出力容量として低ESRの大容量アルミ電解コンデンサを使っているのですが出力電圧が期待よりも低い値しか得られず困っています。容量を大きくしても改善されません。
低ESRのセラミック コンデンサに交換して実験してみてはいかがでしようか。
出力用の容量としては低ESRのアルミ電解コンデンサを使っておられるとの事ですが、現象から判断すると出力容量のESR両端に生じるリップル電圧が出力電圧だとみなされている可能性があります。一度低ESRのセラミックコンデンサに交換してみてはいかがでしようか。その際、データシートに記載されている推奨容量範囲内で小さい方から試すと良いでしよう。
MCP1640が低電源電圧から起動できるというので試しています。しかし、データーシートに記載されている起動に必要な最小入力電圧よりも高い電圧を与えてあげないと起動できないようです。
1)電源電圧の計測点が遠すぎるか、2)負荷電流が大き過ぎる可能性があります。
1)電源電圧の計測個所とグランドをMCP1640のピンに近接させて電圧を調べてください。元の電圧計測点(グランド点含む)とデバイスのピンの間で電圧が降下している可能性があります。これは見逃しがちですが重要なポイントです。
2)最小起動電源電圧は負荷電流の大きさに依存します。負荷電流を小さくして起動してみてください。
MCP1640データーシートの図2-10を見て負荷電流を調整してみると良いでしよう。
MCP1643はなぜLED向けとされているのでしようか。他のデバイスでもLED駆動は可能なはずですが。
MCP1643は他の製品に比べ負帰還用電圧入力のしきい値を低くしてあります。これでLEDと直列に挿入する抵抗値を小さくできます。他の製品でもLEDの駆動は可能ですが、負帰還用電圧しきい値が高いため同じLED電流であればより高い抵抗値が必要です。このため効率が低下します。
図
MCP16301のデーターシートを読んで、出力電圧を決めるとインダクタンス値は自動的に決まると解釈しました。この解釈は正しいですか?
正しくありません。正しくは最小インダクタンス値以上のインダクタンス値を使う事です。この値はデーターシートにはありませんがDesign Analyzeで得られます。
データーシートの表5-1に記載されているインダクタンス値は推奨値であり、実際はこれよりも小さな値を使う事ができます。『AN1385 - MCP16301 デザイン アナライザを使用したMCP16301 スイッチング モード電力コンバータの動的解析』で言及しているExcelベースのデザイン アナライザを使うと、 MCP16301の出力電圧に対する推奨インダクタンス値だけでなく最小インダクタンス値も自動的に求める事ができます。このデザイン アナライザはMCP16301の製品ページからダウンロードできます。
また、インダクタンス値と同じくらいに重要な事は、 直列抵抗が小さくかつコアが磁気飽和しないような充分大きな許容飽和電流のインダクタンスを使う事です。
スイッチング レギュレータは雑音がひどく、容量やフェライトビーズ等を使って工夫しているのですが、なかなか除去できません。何か良い方法はありませんか?
スナバを追加する案があります。
MCP16301降圧用スイッチング レギュレータ応用回路にスナバを追加する事でノイズを抑止した例をアプリケーション ノート(『AN1466 - MCP16301高電圧降圧型コンバータにおける高周波スイッチング ノイズの低減』)として公開しています。回路計測およびスナバ追加検討にお役立てください。
また、この技法を応用した評価用ボードも提供していますので、ご購入の上お試しください。
図
スイッチング レギュレータ出力に重畳するリップル電圧はどの程度ですか?
降圧の場合と昇圧の場合とを分けて述べます。降圧(buck)の場合、下式をMCP1602のデーターシート(DS22061A)に式5-3として、 MCP19035のデーターシート(DS22326B)に式5-6として掲載しています。

   Vripple = Iripple * (ESR + 1/(8*Cout*fsw))
        Iripple: コイル内の電流変化
        ESR: 出力コンデンサの等価直列抵抗
        Cout: 出力容量
        fsw: スイッチング周波数

昇圧(boost)の場合、下式をMCP1640のデーターシート(DS22344B)に式5-2として掲載しています。

   Iout = Cout * (dV/dT)、
   dV: リップル電圧
   dT: NMOSトランジスタのON時間(=デューティ比*スイッチング周期)

上式をdVについて解くと下式になります。

dV = Iout * dT / Cout

この式は、下記参考文献におけるESRが小さい場合と等価です。すなわちESRが無視できるくらい小さい場合を想定しています。
参考文献: 『電源回路設計』馬場; 図10-2 出力リプル電圧の解析、2009年、CQ出版
LDOの出力容量としてはアルミ電解コンデンサがよく使われます。なぜスイッチング レギュレータではアルミ電解コンデンサは推奨されないのにLDOでは使っても構わないのですか?
スイッチング レギュレータで使う出力容量のESRは低くないといけません。そのためアルミ電解コンデンサは推奨できません。しかし、LDOで使う出力容量にはある程度高いESRが適しています。これは、LDOの発振防止に貢献するためです。
“LDOはオペアンプの応用だ”という事を思い出してください。オペアンプの負荷に容量が接続されると、発振しやすい不安定な状態に陥りがちになります。そのため、 オペアンプと当該容量の間に直列抵抗を挿入する事により、ボーデ線図上に極とゼロ点とを新たに作り直し、 開ループ周波数特性と閉ループ周波数特性が交差する周波数での角度を-6dB/octにして安定にします。すなわち、不安定を安定にするために容量と直列に抵抗を挿入するのです。これは、LDOの出力容量に高ESRのアルミ電解コンデンサを使うと発振防止となる事と同じです。
MCP1703Aのような低IQのデバイス内部抵抗はかなり高いため、電源投入時の入力ピンへの急峻な電圧変化が浮遊容量を介してデバイス出力ピンに微分的に表れるような気がしますが、実際はどうでしょうか?
いいえ、そのような微分性出力は表れません。
MCP1703Aのような低IQのデバイス内部抵抗がかなり高い事は事実ですが、電源投入時の起動を確実にするためにスタートアップ回路を設けています。このスタートアップ回路が出力起動特性も制御しており、微分性パルスが出力されないように抑止しています。
Microchip社ウェブサイトでLDOを調べても、シャットダウン等の機能ピンを装備しているかどうか、PSRR性能も、セラミックコンデンサ小出力容量での安定性も分かりません。デバイスごとのデーターシートを参照する以外に、どのように調べれば良いでしょうか?
おっしゃる通り、弊社の現在のウェブサイトでは入力電圧レンジ、出力電圧/電流、パッケージくらいしか情報が得られません。お客様のご不満も至極当然の事です。現在、ご指摘の情報を得るには製品毎の製品ウェブページを見る以外に2つの方法があります。

 (1)アナログ製品についての小冊子 (Analog & Interface Product Selector Guide) を参考にする
     印刷物およびウェブサイト上のPDFファイル(製品ページにリンクあり)があります。
 (2)Analog Treelinkを参考にする
     小容量セラミック コンデンサでも安定かどうかすぐにわかります。
高耐圧LDOはなぜ高PSRRなのですか?
高耐圧LDOは低い入力電圧から高い入力電圧まで広く対応する必要があります。その広い入力電圧レンジ内で入力が大きく変動しても出力電圧の変化は極力抑える必要があるため、高耐圧品の場合必然的に高PSRRとなります。
LDOのPSRRが周波数の上昇とともに低下していくのは理解できます。しかし、どのLDOのデーターシートの特性図を見ても、周波数がある値を超えると今度は逆にPSRR性能が改善されていくように見えます。これはLDOの性質なのですか?
そうではありません。LDOを評価した時の回路定数の特性を反映した結果です。具体的には出力容量の影響です。 LDOはオペアンプの応用である事、そしてオペアンプには特有のバンド幅があり、そのバンド幅を超えた周波数では負帰還が動作しない事を思い出してください。LDOはオペアンプの応用であるため、内部の誤差増幅器(=オペアンプ)のバンド幅上限以上の周波数では平滑化ができません。LDOが平滑化できない周波数帯域を平滑化するのが出力コンデンサの役割です。従って、LDOのデーターシートにおける特性図はLDO自体の特性を表しているのではなく、LDOを評価した回路の特性を表しています。もしこの回路にインダクタンス成分があれば特性図にも表れます。
図
LDOであるMCP1703の製品ページを見るとMCP1703Aを検討せよと記載されているのですが何故ですか? MCP1703とMCP1703 Aでは何が異なるのですか?
MCP1703AはMCP1703とは異なり、入力電圧に対するドロップアウト電流を計測しています。そのため、MCP1703Aのデーターシート(DS20005122)のp. 1左上のFeaturesの第一項目にReduced Ground Current During Dropoutという表現があります。この表現にあるGround Currentは、仕様には記載していません。しかし、図2-36に入力電圧に対するDropout Currentについての特性を示しています。また、図2-33と図2-34に入力電圧に対するGround Currentについての特性図を示しています。
なお、仕様で定められた特性を見ると、下表の通り両者の相違は大きくはありません。
データーシートの仕様上における相違
MCP1703A LDOのデーターシート(DS20005122)のp. 1左上のFeaturesの第一項目にReduced Ground Current During Dropoutとありますが、これは何ですか?
ドロップアウト電流とは、入力電圧が低く設定電圧が出力できない場合に当該LDOに流れる電流です。ドロップアウト電圧は仕様で規定されていますが、ドロップアウト電流は仕様で規定されておらず定格動作外の特性です。データーシートの図2-36に、入力電圧に対するドロップアウト電流を示しています。また、図2-33と図2-34に入力電圧に対するグランド電流を示しています。
この特性は、電源電圧が緩慢に立ち上がるシステムにおいて重要な場合があります。
データーシートの図2-36
MCP1703Aのような低IQデバイスの場合、内部抵抗がかなり高いのだと思います。そのため、電源投入時から出力が表れるまでにかなりの時間を要すると考えていました。しかし、データーシートをみると実用に支障がない程度の出力遅延に収まっています。これはどうしてですか?
MCP1703Aには低IQ LDO用のスタートアップ回路を設けています。この回路のおかげでIQが20~30倍も大きなデバイス(例: MCP1754、 MCP1755)に比べても電源投入時の出力遅延は約3倍です。MCP1703Aのデーターシート(DS20005122B、 DS25122A_JP(和文版))では5.3章で下のように述べています。
5.3 出力立ち上がり時間
内部参照出力の起動時、出力電圧のオーバーシュートを防ぐために、代表出力立ち上がり時間を600 μsに制御します。
図
LDOとスイッチング レギュレータにはどうして入力容量が必要なのですか?出力容量があれば十分ではないですか?
電力供給源からより電力を得やすくして、レギュレータの出力容量と負荷に電流を供給するために必要です。
出力容量だけで負荷に電流を供給できれば良いのですが、負荷が急激な変化した場合にはレギュレータから出力容量と負荷に電流を供給する必要があります。この時に入力容量を使うのです。
なぜ、LDOとスイッチング レギュレータには大きな入力容量が必要なのですか?小さな入力容量では不足なのですか?
配線によるリアクタンスを減少させ、電力供給源から素早く電流を得るためです。
入力容量を短時間で充電するためには電力供給源のインピーダンスのみならず、そこから入力容量に充電するための電流経路のインピーダンスも低い必要があります。単に抵抗値が低いだけでは不足です。なぜならば、電流経路はインダクタンスを持っているため、変化する電流に対してはリアクタンスとなり、電流変化を阻害するからです。そのためには、電力供給源から入力容量までの抵抗値だけでなくインダクタンスも考慮する必要があります。インダクタンスからリアクタンスを求めるためには周波数情報が必要です。その際、電源投入時のリンギング波形から基本周波数を得る事ができます。実際に電流変化を阻害するのは リアクタンス分と抵抗分から成るインピーダンスです。
ところで入力容量が大きいほどリンギング周波数は下がります。そのためリアクタンスも小さくなります。結果として電力供給源からより電流を得やすくなります。これが入力容量を大きくする理由です。
なぜ、LDOとスイッチング レギュレータの入力容量は近接して配置しないといけないのですか?
出力容量に素早く充電するため、入力容量はレギュレータに素早く電流を供給する必要があります。そのため、入力容量をレギュレ―タに近接して配置し、短く配線する必要があります。
なぜ、LDOには出力容量が必要なのですか?
LDOだけでは追従できない急峻な負荷変動に対応するため、そして不安定な電流供給源に代わって電流を供給するためです。
LDOの出力容量を決める場合、以下の2種の場合があります。a) LDOの入力に電流が安定して供給されている場合、b) そうではない場合です。後者の場合特に注意が必要です。

a) LDOの入力に電流が安定して供給されている場合
LDOはオペアンプの応用です。事実、LDO内部の誤差増幅器はオペアンプそのものです。従って、バンド幅という性能限界があります。出力電流変動がバンド幅以内であればLDOの処理できる周波数範囲内です。従って、もてる性能を発揮する事が可能です。ところが、出力電流変動の周波数がバンド幅より高くなるとLDOは負荷変動に対して電流を供給できなくなります。その時にLDOに代わって負荷に電流を供給するのは出力容量です。

b) LDOの入力に電流が安定して供給されていない場合
入力電流供給源の変動をPSRRの範囲で吸収して負荷に電流を供給できれば良いのですが、入力電流供給源の瞬断等の理由でLDOの入力に電流が安定して供給されない場合があります。この場合、出力容量から負荷に電流を供給する事になります。
低IQのLDOはなぜ急峻な負荷変動に追従しにくいのですか?
直感的に分かるように説明いたします。
LDO内部のブロック ダイアグラムを見ると分かるように、どのLDOでも誤差増幅器を内蔵しています。この誤差増幅器はオペアンプそのものです。すなわち、LDOはオペアンプの応用なのです。オペアンプの場合、低IQ製品のゲインバンド幅積(GBWP)は狭かった事を思い出してください。すなわち、低IQ LDOのGBWPは狭いのです。そのため内蔵オペアンプのカットオフ周波数よりも高い周波数においては負帰還がかかりません。すなわち内蔵の誤差増幅器が誤差を補正できないのです。そのため、高い周波数成分をもつ波形すなわち急峻な負荷変動に追従できないのです。
急峻な負荷変動に追従する必要がある場合、 LDOの出力容量を増加させれば良いのですが、その際には高い周波数まで容量性を保つ事ができるコンデンサが必要です。
小型LDOの例として、TC1017とMCP1700とを比較します。これらデバイスの入力電圧レンジと出力電圧で似ています。しかし、MCP1700の出力電流はTC1017より1.7倍大きく、静止電流は1/33と低くなっており、効率という点ではTC1017 より大きく改善されている事が分かります。ところが、MCP1700では負荷の急瞬な変動に対して出力電圧が正常値に復旧するのに140 μsを要します。一方、TC1017は200 nsしか要しません。
諸元比較
Iq vs 負荷の急瞬な変動に対する性能
MCP1703Aは低IQにも関わらず電源投入後の出力遅延がそれほど長くないのはなぜですか? 例えばMCP1703A、MCP1754、 MCP1755等の16 V系LDO (150~300mA)で比較すると、IQはそれぞれ2、56、68 μAですが、出力遅延はそれぞれ600、240、200 μsです。IQ仕様の差ほどには出力遅延の差は大きくないようです。
低IQデバイスの欠点(起動時出力遅延)を補うための工夫/配慮をしているためです。
LDOはオペアンプの応用です。従って、オペアンプを例にとって直感的に理解できるように説明いたします。オペアンプにおけるGBWP対IQは、デバイス内のバイアスが安定時の、いわば定常状態における性能を知るのに役に立つ情報です。それに対し、 電源投入時はまだバイアスが安定していない状態です。とりわけ低IQデバイスでは、 デバイス内が高抵抗のためデバイス内の浮遊容量と相まって大きな時定数を持ちます。そのため、電源投入時にのみ動作するスタートアップ回路を持っています。実はCMOS回路内に電圧参照のためのバンドギャップ回路がある場合には、必ずスタートアップ回路が設けられています。このスタートアップ回路を使って出力遅延を短くしているのです。出力遅延を短くする方法はデバイスにより異なります。
図
LDO、スイッチングレギュレータ、バッテリチャージャ等では、なぜ電源入力にリンギングがあるといけないと言われるのですか?
デバイスの破壊もしくは入力容量への電流供給を阻害するからです。
まず直流的な見地から考えてみます。リンギングによりオーバーシュートがある場合、デバイスの絶対最大定格電圧を超えてデバイスが破壊される事があります。そのような事が想定される場合、過剰電圧スライス(抑圧)機能を持つダイオードの挿入が必要です。
次に交流的な見地から考えてみます。リンギングがある場合、配線に起因するインダクタンスはそのリンギング周波数でリアクタンスを持ちます。このリアクタンスと配線に起因する抵抗分との合成抵抗が入力容量への電流供給を阻害してしまいます。リンギングを低減するには、入力容量を増やしてリンギング周波数を下げる事で、リアクタンスを減少させる方法があります。
バッテリチャージャ デバイスで充電中に入力電圧がゼロになったにも関わらず、出力にバッテリが接続されたままで出力ピンは高い電圧を示しています。この状態で電流は逆流しないのでしようか?
LDOに似ているというバッテリチャージャ デバイスの内部構造から考えると、ご質問のような条件では逆流が生じる懸念があります。ですので、バッテリチャージャ デバイスは逆流防止回路を内蔵しており、逆流する事はありません。
AC/DCコンバータ電源からでもUSBからでも充電できるバッテリチャージャ デバイスMCP73837についての質問です。データーシート(DS22071)を見るとオプションコードFJが注文可能となっています。また、Microchip社ウェブサイトの製品ページでもサンプル注文だけでなく量産注文も受け付けていると記載されています。しかし、このオプションの仕様が分かりません。
主な仕様は下記の通りです。オプションコードFCとCNと似た仕様です。
図

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